SNSの発達により楽曲を公に出すハードルが低くなった現代、様々なジャンルのインディーズバンドが数多乱立している。
そんな<インディーズ戦国時代>の中でも高い完成度を誇る4ピースバンドPOP ART TOWNが、9月6日にニューシングル”真夏のネイビーブルー”をリリースした。
6月末のDigital Single”MOONLIGHT”からわずか2か月でのリリースだ。
コロナ禍によりライブシーンの勢いが下降気味な現在においても、時代に順応しつつ精力的な活動をしていることが伺える。
その活動の中、軸として彼らが打ち出す<キラキラ系POPミュージック>とは一体何なのか。本記事では目新しさとビンテージさを兼ね備えた彼らの音楽性を解き明かしつつ、ニューシングルについて書き連ねていく。
POP ART TOWN
POP ART TOWN、通称“PAT”は2016年に大阪で結成された4ピースバンドだ。メンバー構成はVo.Syn.Gt.なるおさやか、Gt.こーや、Ba.ゆーださん、Dr.しゅんさんとなっている(敬称略)。詳しい来歴は彼らのHPにて記載されているため割愛する。
直近の9月11日にUSEN STUDIO COASTにて行われるライブフェス、PLAYLIST FESTIVAL 2021への出演が決まっており、彼らの方にもthe shes goneやomoinotakeなどの実力派バンドが出演する。
既知な方も多いだろうが、インディーズファンや早耳を自負しているリスナーは是非チェックしていただきたい。
デビューから現在まで一貫性を見せる彼らのPOPさ
1st Mini Album『Variety』
まず彼らが展開する「POP」について書くにあたり、1st Mini Album『Variety』は外せないだろう。
その中でも5曲目に収録されており、PAT史上初めてのMVとなった“DOWN TOWN”は既に完成度が高く「やりたい音楽」が明確に具体化されていることがわかる。
メジャーセブンスのコード感を基軸とした、横揺れの曲調だ。2010年代後半の「シティポップリバイバル」をしっかりと理解したうえでバンドサウンドに落とし込んでいることがわかる。メロディラインはR&B調ながらもキャッチーで、耳馴染みも良い。
このような音楽ジャンルは一定水準の演奏レベルを求められるが、彼らはそれをするに十分に足る演奏レベルを1年目から既に兼ね備えていたのも流石というべきか。
特にDr.しゅんさんのグルーヴを一定に保つハイハットの裏打ちやオープン具合と、それに乗っかるBa.ゆーださん独自のハネフレーズはまるでビールと枝豆ほどの相性の良さだ。
当時この楽曲を聴いた際は、一聴しただけでわかる彼らの技術と目指す音楽性に魅せられた。
そして出世作ともいえる“ノンフィクション”は、彼らの示した音楽性に加え新たな進化を遂げている他、リスナーが求める音楽とも深く合致した楽曲であるだろう。
一聴いただければわかる通り、まずはリズムや展開において大きな変化を遂げている。当時覇権を握っていたポルカドットスティングレイやShiggy Jr.を思わせる裏打ちを強調したビート、そしてそれに乗るカッティングやハネ感により今までになくダンサブルになっている。また、Cメロを落とした後の終盤の転調はリスナーを聴き飽きさせないトラディショナルな技だ。
しかし、ポルカドットスティングレイの様にギターロックに振り切るわけでもなく、 Shiggy Jr.の様に音像をポップに振り切るわけでもない。“DOWN TOWN”で示したように、彼ら自身の軸となる大人びたシティポップの雰囲気はしっかりと残されている。
“ノンフィクション”は彼らの中で最も名の知れた曲の1つだが、これを結成からわずか1年でやってのけてしまったというのだから恐ろしい。
私はこの作品を、<キラキラ系POPミュージック>の非常に強固な土台になっていると考えている。
3rd Single『Theater』
2018年にリリースされた3rd Single『Theater』にて彼らはさらなる進化を果たした。
『Variety』より渋みの増した2nd Single『Week End』を経て、PATは新たな側面を我々に提示したのだ。
それがわかりやすく現れている曲は、『Theater』のリード曲でもある“ドラマ”だろう。
一聴すればPATの進化を耳で感じ取れる。彼らは大胆にも、前作で見せた「渋さ」を削り「華やかさ」の面を加えてきているのだ。
「華やかさ」を担っているのが、冒頭からすぐわかるシンセサウンドだ。アナログライクな音色を持つシンセのイントロが、<80年~90年代ポップス>の「華やかさ」を想起させ、要所で使用されているSEやストリングス系のシンセは<現代ポップス>の「華やかさ」を思わせる。
そして、シンセの増加に伴って、ギターの音量感や定位がリズムギターに徹するようにアレンジされている。この部分が私の考える最大の進化である。
Gt.こーやによるキレのある鋭いカッティングが、リズムとコードを担う重要な役割を果たしつつも、Vo.なるおさやかの歌声を邪魔しない名脇役となっている。
月並みだが、この作品で<キラキラ系POPミュージック>は一つのチェックポイントを迎えているのではないかと私は考えている。あくまでも主軸はボーカルをメインとして、”ドラマ”の様な煌びやかなシンセを要所で打ち出すアレンジは、まさに目新しさとビンテージの両立ではないだろうか。
1st Album『SWEET! SWEET? SWEET!』
2019年にリリースされたバンド史上初となる1st Album『SWEET! SWEET? SWEET!』は、先述の3作品で明確にPatの音楽を理解したリスナーにとって、実家に帰ったような安心感を与えるような作品だろう。
これまでの楽曲で示した音楽性を見事に融合させ、昇華させている。例えば、アルバムの1曲目を飾る“Sweet night”は、特にサウンド面において直近で彼らが示した音楽性と合致していると私は考えている。
また、個人的にはVo.なるおさやかの新しい魅力を最も感じられる楽曲の1つである。耳に残り離れない歌声に加え、キャッチーなメロディラインにブルージーな変化をいれることで、要所要所でaikoを彷彿とさせる色気も垣間見える。
MVにもなっている4曲目の“1LDK”はどちらかというと初期作品に近く、大人びた雰囲気の曲調だ。星野源などからの影響を感じるストリングスシンセのイントロがリスナーを惹きつけるだろう。しかし、キャッチーに比重を置いているサビがしっかりと彼らの個性を際立たせているから流石としか言いようがない。
この曲を聴いていると彼らの打ち出す<キラキラ系POPミュージック>には、ミラーボールが輝くような大人びた雰囲気にあこがれる僕らを後押しする音楽性も宿っていると感じた。
2nd Album 『Sensation』・4th Single『FANTASY』
この2枚は大胆な進化というよりはこれまでのPatの持つ音楽的身体の拡張に力を入れた作品だ。
“Fancy time”や“センセーション”ではシンセやギターの新しい音色やMIDIパッドの採用が、MVやライブ映像から見て取れる。これらは彼らの持つ音楽の色を更に多彩にしただけでなく、長いセットリストを組むことを見据えたライブを通しての熱量の高低差をつけるための戦略としても考えられるのではないだろうか。
また、アルバムの締め曲に位置する“アネモネ”は、上記2曲とは対をなすようにギターロックに寄せた曲調だ。曲を通して聞こえるピアノがクッションになりつつ、サビで訪れる裏打ちビートとベースのオクターブ奏法は <POP ART TOWN ならでは>だ。
4th Single『FANTASY』は、個人的に「ハイファイさ」が増した作品だったと思う。特に、MVとなっているアルバムタイトル曲の“ファンタジー”では、彼らの楽器はともかく、ブラスとピアノのシンセサウンドがこれでもかというくらい綺麗にすみ分けられている。
心なしか、MVも鮮やかな色味で解像度が高いような気がする。余談だが、転調後のサビでスネアが4拍目になる部分は、今までのように直球にノらせるものではない。当時聴いた際は、一番の盛り上がりで見せるフレーズとしては非常に意外な側面だったので驚いた。
2つのニューシングルから垣間見えるそれぞれの「回帰」
ここまでで、PATの魅力と彼らが打ち出している<キラキラ系POPミュージック>について筆者なりに解き明かしてみた。それを踏まえた上で今年の夏にリリースされたニューシングル2曲『MOONLIGHT』と『真夏のネイビーブルー』を聴いてみる。彼らの個性は存分に溢れているが、その中で私はそれぞれ「回帰」した印象を受けた。
まずは6月リリースの『MOONLIGHT』だ。
コード感やブラスの強調、そしてなによりリズム隊のアプローチ。これらはまるで山下達郎を筆頭とした70~80年代のシティポップを強く感じさせる。彼らの初期の作品はどちらかというと現代のシティポップリバイバルが強い印象を受けたが、それとは異なるだろう。例えば曲の展開を例に挙げると、先述の“1LDK”のサビがわかりやすくノらせる展開になっているのに対し、今楽曲は少し落ち着いた雰囲気を纏っている。
もちろんキャッチーだしポップであることには変わりはない。しかし“MOONLIGHT”は彼らの披露する音楽のルーツを辿る「回帰」的な側面が見えた楽曲だ。それ故完成度はかなり高く、個人的に夜の湾岸線で流したい曲上位に食い込む。
続いては冒頭でも紹介した9月6日リリースの最新曲”真夏のネイビーブルー”だ。
1st Single“DOWN TOWN”のようなシックさ、大人びた雰囲気が強く現れている楽曲だ。これまで様々な形で表現してきた<キラキラ系POPミュージック>の中でも、特に原点回帰した作品ではないだろうか。
しかしそこにはアレンジメントでの明確な進化が現れている。
全体的に音域が低くなることで音域の余白が空き、各バースで聴かせたい楽器が鮮明になっている。リスナーが一筋の靄もなくスッキリ聴くことのできる音像だ。また、ダイナミクスの強弱が繊細で、ミドルテンポの落ち着いた曲調で展開していくにも関わらず、各パートの繊細なダイナミクスにより楽曲の高低差がわかりやすく提示されている。個人的にはMVでも描写があるように、日が暮れかける時間帯にしっとりと聴きたいナンバーだ。
PATの掲げるポップスとこれからの彼らへの期待
彼らの特筆すべき点は、様々な試みをしつつも、一貫して楽曲のポップさやメロディのキャッチーさを保ち続けて進化してきたことだろう。これらは長年<キラキラ系POPミュージック>を掲げてきた彼らの1つの答えだと私は考えている。
本記事ではリード曲を中心として取り上げたが、アルバム収録曲など、是非他の曲から各々の<キラキラ系POPミュージック>を見つけていただきたい。彼らの楽曲はSpotifyやApple Musicなどのサブスクリプションサービスで視聴可能だ。
今後POP ART TOWNがどのような変化を遂げるのか私には知る由もないが、今日まで積み重ねてきた<キラキラ系POPミュージック>の旗はどこまでも高く掲げられるだろう。