ディスクレビュー

pavilion『Yumeji Over Drive / conifer』で展開した強固なメロディー


東京五輪も終わった2021年の9月。
自粛も相まってベッドルームミュージックの台頭全盛期と言っても差し支えない空気ではあるが、
ライブという空間でしか感じられない様な、身体全体に響く鮮烈な演奏を欲している自分がいる。

コロナ禍の中、みんなも同じ気持ちを抱いているのではないだろうか。

そんな折、東京のインディーシーンで活躍するロックバンド、pavilionが6月にリリースした1st Single『Yumeji Over Drive / conifer』を改めて聴いていると、鬱屈とした僕らの内面をも晴らすような色あせないオルタナシーンの息吹を感じた。

活動開始から2年しか経っていない彼らだが、その堅牢な音楽性からはメンバーの影響を色濃く鮮やかに繰り出すセンスが既に垣間見えているのではないだろうか。

今回はライブでも熱いパフォーマンスをする彼らのリスナーが増えればという気持ちも込めて、これまでの彼らのリリースしたEPなども振り返りながら書き連ねていく。

pavilionとは

pavilion(パビリオン)は、Gt.Vo.夏月、Ba.佐藤、Gt.尚之、Dr.小山の4人で結成されたオルタナティブロックバンドである。

エモリバイバルロックバンド、Träumereiのメンバーでもあるギターボーカルの夏月氏や、catfood salmonsでドラムを叩く小山氏などマルチプレイヤーがメンバー内にいることからも、その底知れぬアクティブな活動状況がうかがえるだろう。

2019年から東京で活動を開始した彼らは、2020年11月に1st-EP『tailwind』をリリースして、早耳なインディーズのリスナーたちを虜にしたのは記憶に新しいところだ。

内包されたリスペクト精神

リバイバルブームも興隆している音楽シーンの最中にリリースされたEP『tailwind』では、メンバーの「日本の90年代オルタナを敬愛しています」という想いがこれでもかと詰まっている。

リリース当時に筆者も聴いたが、そのストレートかつ、単一的ではない側面を持った楽曲群にすぐに虜になってしまった。

ハイハットの4カウントから始まる最初のナンバー”ユートピアン”では、くるりなどの良質な邦楽サウンドからの影響も感じれる。
一聴しただけで惹かれるリスナーも多かっただろう。

<すれ違う人々と同じだけ やるせない乾きがあるだろ それだけだ>

その刹那的な歌詞を伸びやかなサビのメロディに乗せて歌う夏月氏のソングライティングにも共感が高まるはずだ。

筆者個人としてはCメロの閉塞感を抱くようなコードとメロディから、再び開放的なサビに向かう部分にも、90年代を席巻したロックバンドの真髄が伴っているように感じた。

少しのセピアを伴ったような1曲目から一転、2曲目の”ドロールドロール”では佐藤氏のふくよかなベースサウンドと跳ねる小山氏による心地の良いビートに乗せたキャッチーなメロディーはどこか懐かしいロックンロールや、往年のUKロックの匂いを感じさせる。
後半の絡み合うようなコーラスワークも相まって多幸感を否が応でも感じてしまうところもニクい。

小気味の良い音が響き渡る“ドロールドロール”が終われば、これまた曲調が大きく変わる。

温かみのあるハムバッカーのギターサウンドに、流れ移ろう景色を体現したかのような緩やかなリードフレーズが印象的な”margin”を経て、4曲目”float”でも再び光るのは夏月氏の歌声だ。

岸田 繁を思い起こすようなどこか気怠い歌声が歌詞やその音像全体に色付けするかのように楽曲全体に染み渡る。

筆者が聴く限り、こういった懐かしさを帯びたバンド同士の相性を考えると、同じく東京を拠点とするバンドOs Ossosなどに楽曲の親和性を高く感じる。いつか対バンなどしてくれないだろうか。

EPの最後のナンバー”RACE TO THE BOTTOM”では、音像やメロディーラインの随所に夏月氏がリスペクトするASIAN KUNG-FU GENERATIONのようなストレートなロック性を感じて心地良い。

しかし、そのシンプルな枠組みの中でも要所要所のフレーズやコード進行などで単調さというものを全く感じさせないから脱帽だ。

終盤の激情を表面化させるように急加速するビートや、その中に紛れるスケールから外れた和音にもこだわりを感じる。さながらくるりの”morning paper”を想起させるようだ。

1st EP『tailwind』のリリース後、各地で高い評価を得たpavilionはその歩みを止めることなく、新宿や下北沢など都内各地でライブ活動も行い、着実にファンを増やしている。

そんな中、彼らはその活動を更に加速させるかのように、今年の6月23日に1st Single『Yumeji Over Drive / conifer』をリリースした。

主題となる音楽性を色濃く出した1st Single

今作『Yumeji Over Drive / conifer』は、対極的とも言える音楽性がそれぞれの楽曲に込められているのだが、その主軸には、やはりそれぞれに90年代オルタナティブロックの血脈が受け継がれていることを再認識できるのではないだろうか。

1曲目の”Yumeji Over Drive”は、リリース以前よりライブでもキラーチューンのような位置づけであったが、こうやって改めて音源という形で反芻するとその軽快だがロックサウンドを重視した音像に、ストレイテナーやthe pillowsからのバックグラウンドを感じるのは筆者だけではないだろう。

弾けるようにキャッチーな夏月氏のメロディと、熱量を込めた尚之氏によるギターソロなんかは、夏真っ盛りにオープンカーを走らせながら爆音で聴きたくなる。

続く2曲目の” conifer”は、1stEPの”float”の様な緩やかなナンバーとなってる。こちらも、90年代から00年代のオルタナティブバンドのネオサイケ的なアプローチが渋い。

節々の上がりきらないメロディラインや、リバーブを強めた空間の中で響くゆるやかな夏月氏の歌声が非常に心地よく晩夏を彩るようだ。

90’sオルタナティブロックのリバイバル筆頭か

彼らは、2019年の結成から既に1つの方向性を見定めているといっても過言ではないだろう。作り出す楽曲の音像やメロディに裏打ちされた高いアウトプットセンスもさることながら、そこに至るまでの90年代オルタナティブへの純度の高いリスペクト精神もファンには感じ取れるのではないだろうか。

決して90年代から00年代辺りのオルタナティブロックを安直に再現するのではなく、今のリスナーの耳にも刺さるようにチューニングされたギターサウンドは、彼らの憧れていたロックバンドから良質な部分だけをドリップしたかのようだ。これから増す深みにも既に期待を寄せてしまう。

外出自粛が明けた際には、大手を振って彼らのライブに足を運んでみてほしい。
きっと退屈で訛った僕らの体を起こすような素晴らしい演奏をしてくれるはずだ。

▼1st single『Yumeji Over Drive / conifer』▼


1. Yumeji Over Drive
2. conifer

配信リンクはこちら
https://lnk.to/YumejiOverDrive_conifer

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