ディスクレビュー

Vaundy新曲「トドメの一撃 feat. Cory Wong」のグルーブに宿るリバイバル精神


Vaundyが、2023年10月8日に新曲「トドメの一撃 feat. Cory Wong」を配信リリースした。この曲は、現在大人気のTVアニメ『SPY×FAMILY』Season 2のエンディング主題歌として起用されており、アニメとの相性も抜群のグッド歌謡ポップとなっている。今回はこちらの楽曲に関してレビューしていきたい。

ちなみに過去には当ブログでもフジロックに出演した際のVaundyのライブレビューを記したことがあるので、是非目を通してみていただきたい。

圧倒的なポップセンスに裏付けされた楽曲クオリティ

「トドメの一撃 feat. Cory Wong」は、Vaundyの代表曲「不可幸力」や「怪獣の花唄」と同じく、彼が得意とするポップでキャッチーなサウンドに、独特の歌詞センスが光る楽曲だ。ギターには、米国の人気ファンク・ギタリストであるCory Wongを迎えており、彼の軽快なフレーズが曲に華やかさとスパイスを加えている。

歌詞は、互いに惹かれ合いながらも敵対する二人のスパイの恋物語を描いており、アニメ『SPY×FAMILY』のストーリーともリンクしている。”互いの殺意で トドメ喰らっちゃうね”というフレーズは、愛と戦いの狭間で揺れ動く二人の心情を的確に表現していると筆者は感じた。

“視界に目前映る深い真紅 この先およそ 40000km”
という歌い出しは、地球から月までの距離を示しており、タイアップ元となるスパイファミリーのキャラクター二人の距離感や運命を暗示しているのだろう。SNSで批評がされる現代において、ただ自身の世界観を書き連ねるのではないのが2020年代ポップスアーティストに求められる使命とも感じるが、それを楽曲に落とし込むのが本当に上手である。

昭和へのリスペクト精神が宿った新たな歌唱テクニック

過去にも「恋風邪に乗せて」など、どこか昭和歌謡を彷彿とさせる楽曲を手掛けてきたVaundyだが、今回に関しては完全に昭和歌謡の要素を前面に押し出したと個人的には感じた。

まず注目するところはVaundy自身の本楽曲の歌い方だろう。いつも以上に膨らんだ歌い方に、語尾の息遣いとこれまで特徴としていたAimerや洋楽アーティストを彷彿とさせる気だるい歌い方ではなく、はっきりとした口調でストレートな日本語詞を歌い上げているのは耳で聴くだけで昭和の香りを思わせるクオリティだ。純粋に彼自身の昭和歌謡もとい日本の邦楽に対する解像度の高さに思わず下を巻いた。サビもキャッチーさがありつつも、音価やメロ・バックコーラスなど細部まで古さを感じさせつつも、あくまで現代ポップスの要素として配置しているのが憎い。なんでも作れるな勘弁してください本当に。

あと終始後ろで流れているCory Wongのギターが素晴らしい。めちゃくちゃにグルーブあるし、フレーズの楽曲との絡みがよくできている。個人的には冒頭とサビ前のフレーズがその後の爆発力を上げているように思えて繰り返し聴いてしまう。ずるい。

Vaundyを聴く人でもCory Wongが誰なのかを把握している人は少ないと思うのでここで彼の経歴を少し記載しておこうと思う。

Cory Wongとは

Cory Wongは、ファンク・ジャズを中心とした音楽性を持っており、ソロやVulfpeckなどのバンドで活躍してる。彼のギターの特徴はなんといってもそのカッティングやグルーヴである。現代のギタリストなら誰しもが一度は憧れるのではないかと思うほど滑らかでキレのあるカッティングは一度聴くと忘れられない強烈なもので、私を含めた世界中の音楽ファンから注目されている。どうやったらあの音作りができるんだろうか。

ちなみにCory WongはVulfpeckだけでなく、The Fearless Flyersというファンクバンドにも参加している。このバンドはVulfpeckのメンバーであるジョー・ダート、ウッディ・ゴス、ジョー・ダート2と、ドラマーのネイト・スミスで構成されており2018年から活動を始め、これまでに3枚のアルバムをリリースしているので興味があれば聴いてみてほしい 。

他にもトム・ミッシュやルイス・コールなどとも親交があり、共演したりコラボレーションしており。つまるところ大御所にも認められる激ヤバ実力者である。あのラリー・カールトンやヴィクター・ウッテンなどとも共演を果たしてる。Vaundyとフューチャリングしているその凄さが伝わっただろうか。本当にすごいことなのだ。

Vaundy独自の世界観を余すところ無く楽しめる大人なMV

少し話題がそれたが、本楽曲のミュージックビデオでは、まさかの長澤まさみが主演として登場しており、非常にミステリアスかつドラマチックに描かれている。彼女の演技も素晴らしくVaundyの楽曲に対する理解度や感情移入度が高いのは、そのモノクロな世界で踊る表情や仕草からも伝わってくる。あとミュージックビデオのお金のかけ方がすごい。毎回目眩がするくらい圧倒的なクオリティで出してくるのも驚きだろう。みんなもっと彼のミュージックビデオを見てほしい。

Vaundyは、今回「トドメの一撃 feat. Cory Wong」で、アニメ『SPY×FAMILY』という既存の作品に新たな要素を散りばめつつ寄り添うという形で、自身の独自性や個性を失わずに表現した楽曲を生み出した。彼はこれまでも多くのアニメや映画などとコラボレーションしてきたが 、その都度自分の音楽性を貫きつつも、一つ世界観を伴った糸を編み込んできた。今回の新曲も、彼の持つポップセンスや独創性が際立っており、アニメファンだけでなく、音楽ファンにとっても魅力的な作品として聴こえるのではないかと再認識した。

合計35曲収録という凄まじいボリュームの2nd Album『replica』も控えており今年はまだまだ熱を感じさせてくれるだろう。

「トドメの一撃 feat. Cory Wong」配信はこちら
https://lnk.to/todome