ディスクレビュー

colormal 「losstime EP」から垣間見える祈りと新体制での新たな景色【前編】


〈私はcolormalとしての活動を終えますが、それでもこだわりを持って続けた活動には誇りしかないです〉
昨年の11月に差し掛かろうという時期に、突如イエナガ氏が発信したTwitterでの呟きは、彼の曲によって救われてきた人達に大きな衝撃を与えたことだろう。

もちろん筆者もその一人であった。
ソロ・ユニットであるcolormalことイエナガ氏本人がそう発信する意味を考えた時、宅録から始まった彼の作り出す曲と、サポートメンバーを入れてライブという現場から刷新されていく日々の終わりを意味しているものなのかと、静かに枕を濡らしていた。

結局、その真意はイエナガ氏によるソロ・ユニットが終了する代わりに2021年からサポートメンバーと共にバンド体制で活動を開始するという、ファンにとっては非常に嬉しいニュースであったのだが
「losstime EP」はcolormalがそのバンド体制となって以降、初めてリリースされた音源である。

本作はcolormalの1st Album「merkmal」から3年振りのリリースとなり、どのような楽曲群によって構成されているか非常に注目度が高かったと思う。

https://soundcloud.com/colormal/replay

「merkmal」以降、彼のSoundCloudでは再録された「最大限」や「再放送」などが立て続けにアップロードされる時期もあり、それらを含めた2nd Albumのリリースも予想される中、今作には前述の楽曲たちが含まれていないというのも注目すべきポイントではないだろうか。

上記の楽曲はあくまでイエナガ氏がソロ・ユニット時代に制作した曲であり、今作の4曲のうち、3曲はバンド体制となって以降にメンバーと合同で制作されたものだ。
(収録曲の中の「さまよう」は「merkmal」時代からのファンにはお馴染みの曲ではあるものの、後述するがこの曲を収録したことに関しても本作の構成には欠かせないものだと考えている)

メンバーにマツヤマ(ベース)、やささく。(ギター)、田井中(ドラムス)を迎え入れた今回のEPはその全てに〈鮮烈な音像〉を感じとることができる。それは宅録で制作されたこれまでの音源とは一線を画すものだ。

これまでの楽曲も、とても彼が独りで宅録環境の中作ったとは思えないような素晴らしいサウンドや曲構成であったが今作がそれらと大きく違う部分として、やはり彼らのライブを思わせる音像が挙げられる。
特にマツヤマ氏によるベースサウンドは唯一無二と思わせるほどに血が沸く艶かしさを孕んでおり、一歩間違えれば楽曲から浮いてしまうのでは、と思わせるほどスリリングな巻弦の弾ける歪んだ音は、聴けば聴くほどにcolormalの中に新しいピースとして合致していくのだから不思議である。

筆者は数回彼らを観にライブへと足を運んだことがあるが、今回のEPは全曲を通して彼らの〈ライブでしか感じ取れないヴィヴィッドな雰囲気〉を思い起こさせる仕上がりだ。
(YouTubeにも現体制と同じメンバーでのライブ映像は上がっているが、現場で飛び出す爆音と気迫はそれを遥かに凌駕するので是非観たことが無い人には足を運んで欲しい。)

前作のリード曲「夢みる季節」の前に制作されたという1曲目の「1995」は”浪速のジョン・メイヤー”ことやささく氏の奏でる美しいリフによってその幕を切って落とす。
バンド体制としての新しいcolormalが生まれたことを世に知らしめる産声のようにも聴こえるが、その歌詞には終末期を連想させるワードが立ち並ぶ。

〈オートピープの中 呼吸は薄まる〉サビの最高潮に達する場面でイエナガ氏が歌い上げる歌詞は、凄惨さでは無くどこか安堵を覚えるような柔らかな死への道程だ。
袂を別つことを主題としているであろうこの楽曲は、それまでの過程を全て肯定するかのように包み込むようなギターの轟音と鎮魂歌の如く広がる優しいコーラスで終盤を彩ってくれる。

そのまま田井中氏の叩く磐石なドラムより、2曲目の「さまよう」に入る。
この楽曲は前述の通り、前作「merkmal」に収録されていたソロ・ユニット時代からの楽曲である。リリース時のイエナガ氏とマバセレコーズの前田氏によるセルフライナーノーツの記事を読むと
当時のリファレンスにはsalyuの「Dramatic Irony」やモーモールルギャバンの「午前2時」を挙げていたが、当時の「さまよう」の音源自体にもその影響が色濃く現れていたように思う。

再録前のイエナガ氏の歌い方にはどこか無機質然とした部分や、それぞれの楽器の音像に冷たい雰囲気が帯びていた。ソロ・ユニットである彼自身の内向的な感情が向けられていた所以なのだろうかと考えながら聴き入っていたが、今作のバンドメンバーと紡がれた再録版は大きくその雰囲気を変えている。

序盤から地を這うように鳴り響くベースは今回のEP収録曲の中でも特に生々しさを感じ、この楽曲全体が脈を打つことに繋がっている。
イエナガ氏の歌い方もライブで場数を踏んだからなのか、その間に移ろいだ日々の景色を想ってなのかは、定かではないが、ともかくその歌唱における色温度が明らかに高くなっているのである。以前までの憂いは抱えたままこの楽曲に対する向き合い方が大きく変わったのだろうか。
宅録時とバンドメンバーによる今回の再録版は録音や編曲など大きく異なる為、比較するものではないのかもしれないが、
〈あー 神様 わたしいま 変わっていくの。〉そう歌う彼の歌詞には以前までは無かった内包する温かみを感じとることができて非常に好みだ。
この楽曲はミュージックビデオも制作されており、これまでのイエナガ氏の変遷を連想させるような優しい映像となっているのでこちらも是非チェックすべきだろう。

※後編記事に続きます。