お久しぶりです。
自分は書き物という行為自体は嫌いではないのですが、不慣れなので丁寧に向き合おうとすると時間がかかってしまう。
そういった創作行為全般は総じて日が経つ毎に意欲が薄くなってしまうものなのですが、
(Logic立ち上げることすら無ければDTMも段々しなくなるよね的な)
最近きっかけがあったので久しぶりに文章を書こうかなと。
記事タイトルにもある通り、colormalが2ndEP「anode-EP」をリリースした。
「anode」(読み:アノード)と題された今回のEPには、
今年の1月にMVが公開された『瞳』やライブの定番曲『優しい幽霊』などのキラーチューンに加えて新曲3曲が含まれた全5曲から構成されている。
過去にも当ブログで取り上げた通り、元々colormalは宅録でスタートしたイエナガ氏によるソロプロジェクトである。
そこからライブ活動を重ねる毎にバンドとしての強度を高め、
前作「losstime-EP」でマツヤマ氏、やささく氏、田井中氏の3人のメンバーを含めた4人体制のcolormalという新たな側面を提示するに至った。
さて、本題である今作「anode-EP」は作品を通してどうかと問われると
筆者は、4人体制で獲得したcolormalという船としての器の大きさをリスナーに向けて力強く提示している作品だと感じた。それぞれの楽曲について触れていこうと思う。
本EPの1曲目は、冒頭でも触れた楽曲『瞳』からスタートする。
ツインギターによる印象的なアルペジオのリフから始まるこの曲は、暗い洞窟から遠くの光に向けてゆっくりと歩を進めるかのように曲調が展開していく。
〈今わたしの目を覗いて、なんにもわからなくなっていいよ。〉という歌詞に載せられたサビのメロディーは、見出してしまった救いの渦に身を任せ、優しく飲み込まれるかの様にリスナーを虜にしていく。
この曲がリリースされた当初から思っていたことだが、colormalの真髄は独特なコード感に負けないダイナミックな曲展開と耽美かつ強固なメロディラインにある。
今楽曲では特にその要素を浮き彫りにさせて美しく感じるポイントが多々あるので、初めてcolormalを聴く人にも是非おすすめしたい。
艶やかさと浮遊感を伴った『瞳』を経て、2曲目は先日のライブでも演奏していたダンサブルな新曲『22』だ
イエナガ氏のソロプロジェクト時代に作られた楽曲『再放送』にも通ずる今楽曲は、本EPに収録されている曲の中でも元来の宅録的な要素が多分に詰まった曲である。
RolandのリズムマシンTR808のようなカウベル音や、ハンドクラップのサンプリングをバンドサウンドに織り込みつつも、主題となる不甲斐なさや孤独な室内で反響する嘆息を生々しく歌詞として描く辺りは非常に<colormal節>が効いていると言えるのではないだろうか。
ただダンサブルなだけではなくどこかMr.Childrenの『フェイク』にも通ずるようなダークな雰囲気を帯びたこの曲は、サビ以降にも哀愁や焦燥などの感情が持つ抑圧と解放を見事にバンドとして表現しており、4人の掛け合いとしても鮮やかに成立させている。
楽曲自体もいろんな意味で非常に愉快だが、個人的にはライブでしか体験出来ないやささく氏による、音源以上にファズ感あるギターリフと暴発寸前の凶悪なマツヤマ氏のベースサウンドもおすすめなので興味がある人は是非ライブ会場で今楽曲を堪能してほしい。
『22』を経て迎える3曲目はcolormalリスナーにとっては馴染みのある『優しい幽霊』だ。
筆者はSoundCloudやDropboxで公開されていた時期から聴き込んでいたリスナーだが、こうして改めて丁寧にRECとミックスされた音源を聴くと非常にバンドサウンドの豊かさを感じる。
過ぎ去る季節や、纏いきれなかった温度感に対する諦念と真正面から向き合った歌詞はこれまでと変わらず、そこに気づけば一緒に歩みを進めるメンバーの音が力強く乗っているのだからこの楽曲自体がちょっとしたドラマなのではないかと錯覚してしまう。
街行く人々の大半が抱くような無邪気で、ともすれば無慈悲とも言える感情を描いたこの楽曲は今後彼らがリリースするであろう楽曲の中でも埋もれる事なく輝き続けるだろう。
4曲目に位置する『(tandem)』は、ここにきて5曲目を迎える前に用意されたインタールードの位置付けに当たる楽曲だ。
ハンドメイド感のある音像の中で、曲の長さとしては短くも本EPの中で存在感を放っており、
後述するEPタイトルの由来とも共鳴する (tandem)=複数人で駆動する乗り物 という楽曲タイトルと歌詞には本EP全体のテーマとしての顔を覗かせている印象だ。
〈はじめから僕らどこか違う生き物なんだって 分りながらそれでも〉と優しく歌い上げるイエナガ氏の歌声と暖かく歪んだギターの音は、まるで小さな部屋の中から外の世界に飛び出さんと言わんばかりに力強く始まる5曲目の『アンセム』へとなめらかに繋がっていく。
収録曲の最後を飾るこの楽曲は深みのあるバッキングギターのサウンドとやささく氏による力強いチョーキングのギターリフから始まりつつも、丁寧にイエナガ氏のメロディラインを届かせるこれまでになく暖かな楽曲だ。
アンセム(讃歌)と題され、イエナガ氏曰く大切な友人への祝福の歌とのことだが、その中身にはここまでの歩みを目にしたリスナーへのアンサーソングとしての意味も込められているのではないかと筆者は感じた。
〈愛の本懐は、癖の強い文字で 書き足せる様なものではないと分かっていたつもり。〉
自分で歌う予定じゃなかったと度々言いつつも数年間ライブバンドのcolormalとして活動を続けていく毎に、4人の見えている景色は広がっていったのではないだろうか。
そこで目にするリスナーの姿やSNSでの感想は、活動初期に抱いたであろう孤独な感情を徐々に手放すきっかけとなったはずである。
イエナガ氏自身のそういった内面に対する掘り下げによって『夢みる季節』をはじめとした宅録ならではの歪な美しさを孕んだ楽曲が生み出されたのは事実だ。
そこから月日を経て4人組バンドとしての一体感を得つつある現在では、もしかしたらそのような冷たい原動力は小さくなっているのかもしれない。
しかし筆者はライブでcolormalを観る度に、大勢のリスナーが目を輝かせたり拳を掲げている姿を目にしてきた。
宅録からバンド編成の流れを経て、観客をも自身のエネルギーにしているような気がしてならなかったのは見間違いではないはずだ。
その空間には孤独な時期とはまた違う、もしかしたらそれ以上に力強く温かな音楽活動への原動力が宿っており、今の彼らはその空気感を纏いペダルを漕いでいるのではないだろうか。
〈安酒の泡を数えよう。同じ分生き永らえてしまおうか?〉
前作「losstime-EP」の最後に位置する『延命』に通ずるダイナミックさとcolormal史上最高峰にメロディアスなギターソロ後に出てくる歌詞の一節だ。
そこにはこれまでの不安定な道を乗り越え、イエナガ氏の音楽と生活の同居した内面性に対する姿勢の変化が見えてくるようだ。
EPタイトルである「anode」とは外部回路から電流が流れ込む+側の電極のことである。
まるで彼ら自身がそうであるかのようにリスナーや影響を与えうる者達の力を得ることで、力強く本作品をリリースするに至ったと筆者は考える。
ソロとしての活動から3人のメンバーを迎え入れた4人組ロックバンドcolormal。
「anode-EP」は自分達だけではなく周囲の声も血肉にして素晴らしい楽曲を提示していくという強い意志やその器の大きさを想起させる作品だ。
EPジャケットはシーツを被った幽霊にも見えるオブジェクトがこちらをじっと覗いている様な、ともすれば新たな扉を開こうとしている様にも見える多角的なデザインだが、その示す先は今作を通して聴いたリスナーにはきっと伝わるはずだろう。
▼『anode-EP』▼
01. 瞳
02. 22
03. 優しい幽霊
04. (tandem)
05. アンセム