YouTubeレビュー

SBX KICKBACK BATTLE 2021~ビートボックス沼は深かった~


ある動画をきっかけにビートボックスに興味を持つ

“HumanbeatBox”
私はいわゆるビートボックスと呼ばれるジャンルに今まで触れてこなかった。
好き嫌いが理由ではない、正直に言うとシンプルに興味がなく、そもそも興味を持つきっかけがなかった。

「なんかヒカキンがやってるやつでしょ?」

ビートボックスを知らない人が発する言葉ランキング第1位である。私もその中の1人だったのは言うまでもない。しかしTwitterで流れて来たある動画を始まりとして、その環境は一変した。

https://www.youtube.com/watch?v=_f5ZBWsyVp4

TikTokで最初に投稿された動画で、1人の男が「Day 1」「Week 1」と年月を口にし、それに応じてビートボックススキルの進化を披露するだけの動画だ。しかしその進化過程は非常にわかりやすい。その中でも0:30〜から現代チックなEDMサウンドのビートボックスに明らかに変化していくのが印象的だ。

そう、この男こそ今のビートボックス界を引っ張る1人であり、本記事のテーマであるSBX KICKBACK BATTLE 2021で優勝したD-LOWなのだ。

ツイッターで見た当時はこの男について書いていなかったため、私はこの男がD-LOWと知らず「もはや人間業ではないな」と思いながらこの動画に「いいね!」をつけた。そして数日後これが脳裏に残っていた私は、Youtubeでこの動画について調べるべくビートボックスについて検索した。すると別の動画に目が留まった。

SBX KICKBACK BATTLE 2021 Finalの日本語紹介動画だ。
この動画のサムネイルを見た私は、「この左の外国人見たことあるぞ」と、直感でクリックした。私に待ち受けていたのは、今まで見たことのない世界だった。

ちなみに、この動画は”Fuga”と”HIRO”で構成されるビートボックスのタッグチーム『Rofu』が運営している、登録者数36万人(執筆現在)のチャンネルからのものである。彼らは様々なビートボクサーのレビュー動画だけでなく、So-SoやDaichiなど国内でも有名なビートボクサーとのコラボ動画など、私のようなビートボックスを知らない素人にも門戸を与えてくれる数少ないビートボックスチャンネルの1つだ。

また彼らはAsia Beatbox Championship 2018で優勝を成し遂げている実力派の2人でもある。余談だが、本ブログでも記事となっているバーバパパ「ウ”ィ”エ”」のカバーを最初期に挙げ、その名を広めた功労者でもある。ヒカキンのカバー動画と異なり自主制作・オリジナル感満載でまた別の面白さがある。是非一度ご覧いただきたい。

SBX KICKBACK BATTLE 2021

SBX KICKBACK BATTLEとは、ビートボクサー同士が対面することなく、各ビートボクサーが撮影した動画で審査されるコロナ禍ならではのオンラインイベントだ。約300弱の応募があり、その中で選ばれた8人のビートボクサーがトーナメント形式でバトルを繰り広げた。

今年初めて開かれた大会で、歴史がないため情報が少なかったが、こちらに出場者情報などが詳しく記載されている。英語ではあるが一度目を通しておくといいだろう。

そして本記事で紹介するのは決勝戦、マッチアップはイギリス出身の『D-LOW』とスペイン出身の『ZEKKA』だ。どちらも界隈では名の知れた2人である。決勝戦のルールは、1人2本ずつの演奏動画(制限時間は2分間)を用意し、それを交互に披露していく。3名の審査員による投票で勝敗が決着し、優勝者を決定する。

私は素人のため、どうやってこの音を鳴らしているかなどの技術的な面においては全くわからないが、音楽的な面において個人的に衝撃を受けた場面を少しだけ書き連ねていこうと思う。

ROUND1 D-LOW 1本目


まず曲を通した音色の数の多さにドン引きする。しかしアレンジワークは絶妙で、ベースを主とした低音とスクラッチ音を主とした高音のバランスが抜群だ。ビートボックスの前に単純に曲として良い。前半は通常の8ビートで曲が進み中盤のパーカス連打で明確に展開が変わるが、後半は、前半で使用したビートをそのまま引用しながら音色を増やすことでより踊らせる曲調になっている。

そして極め付けは、メインビートでこれでもかと音色の多さを晒け出した後、ここがドロップですと言わんばかりのハーフビートだ(2:10〜)。ここでノれない奴は3拍子をメインに生きて来た奴だけだろう。

ビートボックス的にはフィルや中盤のパーカス連打部が技術的に秀でているのだろうが、個人的には1:39〜や1:55〜のビートにおいてしっかりと頭にバスを入れている部分のように、冒頭の四つ打ちを念頭に置いていることが感じられるアレンジワークに感動した。

ROUND2 ZEKKA 1本目

冒頭のメロディ、いきなりだがこの声何?

自然に出してるように見えるが、ここまで綺麗な裏声多めのミックスボイスを出せる人は少ないのではないか。曲調自体はD-LOWが比較的ストレートな四つ打ちEDM風だったのに対し、メロディを多くはさみ、またそのメロディラインも相まって少しお洒落な、大人な曲調だ。

個人的には途中で適度に挟まれる汽車の音がすごい気になる。裏でサンプラーかなんか押してませんか?

そしてやはり1番の見所は3:19〜だろう。先述の声の魅力がふんだんに伝わるアルペジオフレーズだ。先述の『Rofu』による紹介動画で「ピッチ感がやばい」と彼らも驚いていたが、私もそれには全面同意だ。普通に音程を取るだけでも難しいのに、途中からはこれにハットが加わってくる。意味がわからない。

4:13〜のフレーズも単発で入れてくる歌声が良いアクセントとなり、展開を広げるための手段として重要な役割を果たしているように感じる。しかし後半フレーズの最後はその歌声とは真逆のドン低ベースで締められる。ギャップの作り方が凄まじい。

ROUND3 D-LOW 2本目


各々1本を終え、未知の世界に食傷気味の私だが、まだ折り返し地点だ。
リアルで聞いたことのない閻魔声で開始するROUND3、彼はいきなりかましていく。ROUND2でのZEKKAのメロディラインを「俺もできますけど?」と言わんばかりにパクっていくのだ。しかもオリジナルビート付きで。声の綺麗さでは若干ZEKKAに軍配が上がるが、それでも音程は外さない。ビートボクサーは歌も上手いのか。

前の2本とは明らかに異なり、背景も相まってかなりダークな曲調だ。〜5:10まではイントロのようなもので、そこから本編に移行するが、その中でも後半は衝撃を受けっぱなしだった。個人的には5:52〜が最高で、この展開までの持って行き方も含め滅茶苦茶にかっこいいし、しっかりと頭も振れるグルーヴ感だ。

ここまでD-LOWの曲を聴いた上で、D-LOWが持つ全体を見据えたマクロの曲作りと、バースのみを見たミクロでの曲作りのレベルの高さを痛感した。曲を通した展開のスムーズさとバースごとの各音色の組み合わせが抜群に上手く感じる。

そして最後(6:13〜)はビートボックスならではのスキルマックスなフレーズを息をつかせる間も無く羅列し、最後はZEKKAよりも低い音程のベースでフィニッシュする。この時点で私が既にD-LOWフォロワーになっていたことは言うまでもない。

ROUND4 ZEKKA 2本目

最後の2分だ。もうどっちが上かなどどうでもいい。この動画に出会えたことに感謝し、再生する。
冒頭では当たり前のようにROUND3のD-LOWのフレーズをパクってスタートする。ビートボックスを知らなかった私にとっては新鮮だったが、どうやら大会では良くあることらしい。怖すぎるよビートボックス。

まずは絶妙なテンポが前半の特徴だ。6:47〜では縦ノリを感じさせる音のはめ方で挨拶し、7:04〜でビートを排除することで横ノリを感じさせる。そしてやはり魅力的な歌声を武器に曲が展開していく。

7;19〜から本編の始まりで、D-LOWとは異なる音色の多さを駆使してビートを推し進めていく。ここまで見た4本を通じて、個人的にはD-LOWが複数の機械を模する”横”に広い音色の多さなら、ZEKKAは複数の打楽器を模する”縦”に広い音色の多さを感じた。どちらも明確に差別化されていて、バトルとして非常に華がある。

低音寄りのドラムを全面に押し出した最後の1分はZEKKAのプライドの様なものを素人ながら感じた。最終的に2対1でD-LOWの優勝となり今大会は幕を閉じたが、どちらが優勝してもおかしくはなかったのではないだろうか。

Grand Beatbox Battle 2021に向けて

いかがだっただろうか。ビートボックスで最も権威のある大会であるGRAND BEATBOX BATTLE 2021が今年の10月末に開催されるが、その前にこの動画に出会えたことは非常に運がよかったと思っている。

世界中のビートボクサーが参加するこのGBBは、カテゴリー別にそれぞれのチャンピオンを決める大会である。本記事のテーマであるSBXは「ソロ」カテゴリーだが、その他「タッグ」「ソロ・ループステーション」などがあり、「ソロ」しか知らない私にとっては、それぞれまた違った側面を見せてくれると期待が膨らむばかりだ。



ちなみに今回取り上げたZEKKAはソロカテゴリーで出場が決まっていて、D-LOWは出場していない(審査員にまわる可能性を本人が示唆している)。それ以外の出場者はこちらで確認できるため、事前勉強として何人か目星をつけて曲を聴いてみる予定だ。

日本人も多く参加するこの大会で、誰がどんなドラマを繰り広げるのか。関心を持った上で挑む世界大会の観戦が待ち遠しくて仕方がない。