ディスクレビュー

Kylie Minogueの『Padam Padam』が魅せるダンスポップの新境地

Kylie Minogue-Padam Padam

ダンスポップの女王が放つ新曲は心臓の音を表現したオノマトペ

Kylie Minogue(カイリー・ミノーグ)は、オーストラリア出身の歌手であり、ダンスポップの分野で世界的な成功を収めてきたアーティストだ。彼女は1980年代から現在までに16枚のスタジオ・アルバムをリリースし、数々のヒット曲を生み出してきた。その中でも特に有名なのは、『Can’t Get You Out of My Head』や『Spinning Around』などのダンスフロアを沸かせる楽曲だろう。

サムネイルも、MVの雰囲気も時代感を感じられて良い。ノスタルジーを感じられる

彼女は2023年5月18日に、16枚目のスタジオ・アルバム「Tension」からの先行シングルとして「Padam Padam」をリリースした。「Padam Padam」というタイトルは、心臓の音を表現したオノマトペであり、歌詞ではセクシーな出会いとその後の展開を描いている。発売直後から世界中で大きな反響を呼び、特にソーシャルメディア上でバイラル現象となったことも記憶に新しい。

筆者がこれを一聴したとき、1週間ほど耳からこの曲が離れなくなってしまった。

本楽曲はリリースから既に3か月経過しているが、フルアルバム『Tension』が先月にリリースしたため、その記念として、彼女のエレクトロニック・ナンバーについて、本記事では記していこうと思う。

ミュージックビデオは1976年の映画「The Man Who Fell to Earth」や
アメリカ文化の要素にインスパイアされており、
レトロな雰囲気が漂っている。

ダンスポップとシンセポップが融合したエレクトロニック・ナンバー

本楽曲は、ノルウェー出身のシンガーソングライターであるIna Wroldsenと英国出身のプロデューサーであるLostboyが共同で制作した作品だ。先述したが、タイトルの『Padam Padam』は心臓の鼓動を表す擬音語であり、カイリー・ミノーグ本人はこの曲について、「心拍音が高まるときの感情を表現したかった」と語っている。

もちろん、曲調、MV、歌詞はタイトルにしっかりマッチした内容だ。

曲調は、エレクトロニック・ミュージックと東欧音楽の要素を取り入れた、軽快でキャッチーなものになっている。緊張感を感じる曲調でありながら、耳に残るフレーズとついつい踊りたくなるテンポと、絶妙なバランスを持つ作品だろう。

特筆すべき点は、やはりカイリー・ミノーグの歌声だ。一聴するだけでこの曲のサウンドに見事にマッチしていることがわかる。また、高音から低音まで幅広い声域を使いこなし、曲の感情を表現しているようにも感じられる。サビで繰り返し歌い上げられる「Padam Padam」というフレーズがまるで心拍音と同期しているような感覚になるだろう。フレーズ自体は至ってシンプルだが、非常にキャッチーで印象的だ。

他にも、彼女は歌詞の内容に合わせて、歌い方にも変化をつけているようだ。例えば、サビの「I know you wanna take me home」という部分では、声に色気を含ませて伸びやかに歌っているが、「And take off all my clothes」という部分では、歯切れ良くリズムに合わせ、声を切って歌っている。

これらは、歌詞に合致した欲望や興奮を表現するための、彼女のハイレベルなテクニックが裏打ちされたものだろう。

ソーシャルメディアで話題になった「Padam Padam」のカルチャー的意義

本楽曲はリリースされてからすぐにソーシャルメディアで話題になった。特にTikTokでは、曲に合わせてダンスをしたり、心拍数を測ったりする動画が多数投稿された。このことから、本楽曲は若い世代にも受け入れられ、カイリー・ミノーグのファン層を広げることに成功したことが見受けられる。

オリジナルのダンスもあれば、原曲通りもある。とにかく踊れればなんでも良い。

また、LGBTコミュニティの間でも人気が高さも相まって、プライドパレードなどで流されることも多かったそうだ。余談だが、カイリー・ミノーグは長年にわたってLGBTコミュニティの支持者であり、その一面から、彼らからも愛されているアーティストだ。

さらに、本楽曲はポップカルチャーにおけるカイリー・ミノーグの重要性を再確認させる曲としても評価された。若い世代と成熟したパフォーマーとの間にある世代間ギャップを埋める代表曲となり、ソーシャルメディアやエアプレイを通じて幅広い層に届けられた彼女は50代になってもなお、新しい音楽やビジュアルを提供し続けており、世代間のギャップを埋める役割を果たしている。

『Padam Padam』はカイリー・ミノーグのキャリアの中でも特に際立つ作品であり、彼女の才能と魅力を存分に発揮した楽曲だと言えるだろう。この曲は心拍数の上昇とセクシーな魅力を描くだけでなく、ポップミュージックの歴史に新たな1ページを刻んだ曲でもある。

Padam Padamが魅せるダンスポップの新境地

本記事では、ポップスのアイコンであるカイリー・ミノーグの最新シングル『Padam Padam』について紹介した。セクシーでキャッチーなダンスナンバーである本楽曲は、カイリー・ミノーグの音楽的な進化とポップカルチャーへの影響力を示す作品となっただろう。本楽曲を通じて、カイリー・ミノーグのファンはもちろん、特に若者が、ダンスポップやエレクトロニック・ミュージックに興味を持つきっかけにもなってほしいというのが筆者の個人的な想いだ。

そのためにも、まずは『Padam Padam』の世界に浸ってほしい。本記事が、そのきっかけとなってくれれば筆者としては幸せだ。