9月8日、京都出身の3ピースバンドHakubiがメジャーデビューとなるファーストアルバム『era』をリリースした。
今回は、真っ直ぐな音楽性と共感を深く呼ぶ歌詞を武器に、多くのリスナーから支持を得ている彼らの楽曲群について書き連ねていく。
この記事を執筆することを決めた大きな理由は、自分自身を肯定できず「今を生きるのが辛い」というやりきれない悩みを持つ多くの若者にHakubiの音楽を是非聴いてほしいと思ったからだ。
同アルバムの『era』を含むHakubiの楽曲群は、そんな悩める若者に寄り添って、一筋の光を見出してくれるだろう。
京都発の3ピースバンド「Hakubi」
HakubiはVo./Gt.片桐、Ba.ヤスカワ アル、Dr.マツイ ユウキで構成される3ピースバンドである。
2017年に京都にて結成された同バンドは、市内ではキャパと音響に定評のあるライブハウス、京都MUSEでのライブ活動を中心に動員を集め、結成から約4年、満を持してのメジャーデビューだ。
個人的な記憶として強いものが、後々大きな反響を呼ぶことになる楽曲“夢の続き”がリリースされた頃の彼らのライブに訪れた時のものだ。
現在よりも比較的ギターロック要素が強かった彼らが持つライブならではの熱量と、観客の熱狂具合に圧巻されたことがきっかけで彼らの楽曲を本格的に聴くようになった。
ストレートな曲調に乗る自己投影のしやすいリリック
Hakubiを知らない人に「Hakubiってどんなバンドなの?」と聞かれたら、まずは先述の“夢の続き”を勧めたい。結成から1年経たずして驚異の反響を呼び、Youtube再生回数において当時のインディーズシーンでは異例となる100万回再生を突破したのだ。現在は300万回を超えているが、内50回は少なくとも筆者による再生だ。
今楽曲は彼らの音楽性の土台となったものの1つだろう。2000年代以降のギターロックからの影響を感じる彼らのサウンドは、一聴するだけで各パートの役割分担が綺麗に為されていることがわかるだろう。
Dr.マツイ ユウキが打ち出す飾らない自然体なビートと、Ba.ヤスカワ アルが奏でるメロディとリズムの橋渡しとなるフレーズは、フロントマンであるVo./Gt.片桐を最大限に活かすための土台として強固なものとなる。
そして、それに乗り彼女が放つ力強くも透明感のある歌声はリスナーの耳へ真っ直ぐに届き、内省的な歌詞が我々の奥底に抱えている苦悩の代弁者となることで、感情をこれでもかと揺さぶってくるのだ。
MVはいたってシンプルなバンドの演奏シーンのみだが、そこに展開される文字列は視覚と聴覚のダブルアタックだ。歌詞中の「言いたいことも言えないまま現実逃避だけが上手くなって」の一節が、当時事なかれ主義で生きてきた筆者にとってナイフの様に心に刺さったことを覚えている。若者だけでなく幅広い年代に通じる一節だろう。図星のリスナーは是非今楽曲を一聴してほしい。
また、『era』収録の、先行リリースシングルとして発表された“在る日々”は、全国のラジオ局で再生され新たなフォロワーを獲得した1曲だ。Hakubiフォロワーの中でも推し曲として筆頭に挙げられることも多い。日々の雑踏に打ちのめされて弱っている人が身近にいたらお勧めしてほしい楽曲の1つである。
スローテンポな曲調の中、陰鬱とした雰囲気の歌詞に自己を重ね合わせてしまうリスナーも多いだろう。しかし、決して絶望一色ではない。わずかな光をもとに一歩踏み出す勇気を与えてくれる、非常にエモーショナルなナンバーだ。
“在る日々”の製作過程におけるインタビュー記事からは、作詞を担当するVo.片桐の歌詞の内面の一部やMVに対するバンドの心情が細かに明かされている。今楽曲をより深めるために是非一読してほしい。
これまでの軌跡を映したメジャーデビューアルバム『era』
メジャーデビューアルバム『era』は今までのHakubiを現したようなアルバムとなっている。
アニメ「Artiswitch」の第2話に起用された“color”のような、従来のアップテンポなギターロックナンバーが前に出がちだが、彼らの魅力はそれだけではない。
“在る日々”のような歌詞を前面に押し出したメロウな楽曲や、“アカツキ”のような鍵盤、弦楽器を使用した柔らかいサウンドの楽曲など、4年の月日をかけて錬成された音楽性は多岐に渡ると感じるのだ。
現在上映中の映画「浜の朝日の嘘つきどもと」の主題歌に抜擢された“栞”は同アルバムのリード曲として1曲目に君臨しているが、この楽曲からは彼らの元来持つ側面と新たな側面の両方を垣間見ることができるだろう。
後期のきのこ帝国を思わせるようなミドルテンポで広めの空間を感じるイントロは彼らの新しい試みだ。しかし、Hakubiならではのボーカルを前に打ち出すサウンドとメロディラインのキャッチーさは、古参ファンを決して置いていかず、また初めてHakubiを聴くリスナーにも取っ掛かりが良いバランスの取れた楽曲である。
そして、やはりHakubiの大きな魅力はその歌詞にあるだろう。フィルムカメラに収められたライブの写真、オフショットが散りばめられたMVの“悲しいほどに毎日は”で打ち出されるその歌詞からは、彼らなりの応援歌ではないかと考えている。
リフレインされる「悲しいほどに毎日はあっけなく終わってく」の一節は、我々リスナーの背中を押すだけではなく、むしろハッパをかけられているような心境になる。しかし胸の内に現れるのは焦りではなく、「そうだよな」と思わせる納得感ではないだろうか。
繰り出されるスネアロールや、大袈裟ではないながらもしっかりと力強さを感じるシンガロングはその一節を届ける展開として最適だ。あくまで一例だが、アルバムを通した説得力のある歌詞と、それを最大限伝えられるような楽曲のアレンジメントが、現在彼らが支持を得ている要因の1つだと個人的には考えている。
9月末から26県を跨ぐ全国ワンマンツアーを決行
そんな飛ぶ鳥を落とす勢いの彼らだが、ついに8月、全国ワンマンツアーの開催が決定した。
「傾・粉塵爆発ツアー」と名付けられた同ツアーは9月30日から始まり、渋谷CLUB QUATTROを皮切りに全国26都道府県を2か月弱で行脚する密度の濃いツアーとなっている。
今からでも遅くはない、ラジオやSNSなどのメディア媒体で新たにHakubiを知ったリスナーは是非このライブに足を運んでみて欲しい。ライブの熱量を直で感じ、その興奮冷めやらぬまま帰路に楽曲を聴き漁ってほしい。
今までよりさらにHakubiの魅力を知る人が増えていくことを筆者は切に願う。