縛りつける不自由さをも楽しむDiosの新たな姿勢
Diosの新作『&疾走』は、これまでの殻を力強く砕き、元来の自分自身と向き合いながら走り抜ける姿勢を表現した力作だと思う。
Diosは、たなか(ボーカル)、Ichika Nito(ギター)、ササノマリイ(キーボード)の3人からなるバンドである。彼らは2022年に1st Album『CASTLE』をリリースし、その独自の世界観と高い技術力で注目を集めた。その後、2023年にはリミックスアルバム『Re:CASTLE』を発表し、国内外のプロデューサーとのコラボレーションで新たな可能性を示した。そして今年の9月6日にキャリア2作目のアルバムとなる『&疾走』をリリースに至った。
音楽的な成長や探求心、そして人生観を象徴する想いが込められた本タイトル『&疾走』には、「自分達が違和感という鎖をぶら下げながらも新しい世界に走り出す」ことを示している。
それは、前作『CASTLE』で自分たちの城を築き上げた彼らが、城の外に出て新しい冒険に挑むことを同時に意味しているのだ。その冒険の仲間として、今回はTAKU INOUE、川口大輔、永山ひろなおという3人の作・編曲家を迎えて制作した。彼らは、Diosの持つ個性やポテンシャルを引き出しつつ、より自由度の高いアレンジやサウンドメイクで彩った。
また、アルバムのジャケットは、「おそ松さん」や「映像研には手を出すな!」などに関わってきた浅野直之が担当した。浅野直之は、3人のアバターのキャラクターデザインも手掛けており、それらはアニメやゲームといったカルチャーを背景に持ちながらもボカロやVTuberとも接点のあるメンバー3人の2.5次元的な立ち位置を強調している。
歪さを重ねることで表面化された3人の個性
アルバムは、「ラブレス」「アンダーグラウンド」など既発表の楽曲に加えて、新曲が7曲追加された全10曲で構成されている。今回もアルバムを通して楽曲の歌詞は人生哲学がはっきりと表れた言葉が印象的だ。たなかは、「どう生きていくか」というテーマを主題として聴き手に問いかけ、未来を描こうとしているように私は感じた。その言葉は、切実かつ皮肉めいたものであり、同時に希望であり絶望でもある。しかし、どれもが彼ら自身の感情や思考を正直に吐露したものであるのは、前作からのアーティスト写真から楽曲に至るまでを味わったファンならその振り切り具合からわかるのではないだろうか。
音楽的にも、前作から抜け出してより多様な表現を試みているのは間違いない。これまではどこかぼくりり時代の延長線を思わせる大人っぽい色気や強い文学性を備えた楽曲が多い印象ではあったが本作はその内面性を中心に据えながらも、よりポップスやエレクトロといった要素が非常に強く感じる。全体を通しても特に目立つのは、やはり躍動感のある楽曲が増えたことだろう。たなかの歌声も、前作ではダークでミステリアスな印象が強かったが、今作ではより明るくキュートな一面も見せているように感じる。まさにギャルだ。良い。
全体的なビジュアル面もケミカルな感じに仕上がっており、そこにはどこかヒップホップなどにも通じるストリートのカルチャーを思わせる。
本作に関してはBARKSなどでもインタビュー記事が作られているので是非そちらにも目を通してほしい。
「&疾走」から見えてくる堅牢で耽美な姿勢
アルバムの3曲目の「&疾走」は、タイトル曲にふさわしい爽快なナンバーとなっている。
たなかは、「ただしいフォーム&疾走 魔法なんてない」と歌っており、これはタイトルとも重なる今の姿勢なのだろう。「自由に夢を抱くのではなく、その中で力強く自分自身が向き合って生きる」という考え方が音楽や歌詞にも反映されていると感じた。しかし、それは決してネガティブなことではなく、むしろポジティブなことだと私も思う。自分で生きていくということは、自分で選択していくということであり、それが自由であり、楽しいことだからだ。
その自由さや楽しさが感じられるのが、8曲目の「ラブレス」だ。
この曲は、恋愛に対する不満や不安を歌ったものだが、その歌詞は非常に皮肉でユーモラスである。
”LOVELESS なんか くだらねー夜だ あなたといたい Love love loveぽっかり”
そう歌うたなかの声には、ぼくりりの時代とは明らかに違う力強さを感じるのはただしいフォームで皮肉にも向き合っているからなのだろうか。曲自体は要所でコードの妙を感じさせたり様々なサウンドが詰め込まれつつもポップでキャッチーなサウンドに仕上げている。
ただ、ポップな部分に振り切らないのがDiosだ。順番は前後するが2曲目の「アンダーグラウンド」は一転、これまでのDiosとも違うダークな一面を見せるスピーディーな楽曲である。この曲は、社会や世界に対する不満や不信を歌ったものであり、その歌詞は非常にシニカルかつビターだ。
”素直になる ただそれだけ どうしてこんなに難しい? 他人の輝きは僕を否定しないのに 渦巻く感情で ぐちゃぐちゃの心のまま 愚かな疾走”
というあまりにも人間味がありながらもそこに真摯に描写を施した歌詞は流石というべきか。ひた走る苦しさをありのままに表現された歌詞が筆者にはとても刺さる。そして要所で急停止するようなカオスな展開も何もかも全て踏み越えて走り抜けるような爽快さがあるのがとても気持ちが良い。
余談だが、自分はたなかのメロを聴くとどこか宇多田ヒカルのような切なさを感じさせるメロディーだと感じる。それがアルバム全体のポップスさの裏側でも確かに存在しているのは彼自身の大きな影響なのだろう。
アルバムのエンディングを飾る「王」は、特に圧巻のナンバーだ。この曲は、たなかの歌声が伸びやかかつ非常に多彩な表現力や感情移入の力に驚かされる。彼にしか出せない憂いを含んだ特徴的な声を見事に使いこなしている。乗せられる歌詞も「冷蔵庫に放り出した愛情」や「洗濯機に突っ込まれた生命」など独特のセンスが光っており文学的な側面とストレートな内情が織り込まれていると感じた。あと個人的には2Aのメロディが琴線に触れてきて素晴らしいと思う。
取り巻く多様性から生み出されたDiosの新たな道
1作目とはまるで違うより混沌としたDiosの雰囲気は全体的には歪な部分が増えたと思うのだが、何よりも不思議なのはその上でさらにポップスとしての速度を増していることだ。これからどのように進んでいくのかがまるで読めないのに、多彩さを纏った3人が生み出す楽曲は今後も自分達が思うがままに進んでいく覇道の景色を予感させるものに仕上がっていると感じた。バンド結成から追っていた身としては今後が非常に楽しみなバンドの一つだ。
2023年9月6日(水)リリース
Dios 『&疾走』
配信URL:https://Dios.lnk.to/SPRINT
▼収録曲
01. 自由
02. アンダーグラウンド
03. &疾走
04. 渦
05. また来世
06. 花束
07. ラブレス
08. Struggle
09. 裏切りについて
10. 王