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BRING ME THE HORIZONの新曲『DArkSide』をポストヒューマンの側面から分析する

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全4作のEPを組み合わせて完成すると言われているプロジェクト『POST HUMAN』

BRING ME THE HORIZONは、2023年10月13日に新曲『DArkSide』を配信リリースした。この曲は、2024年に発売予定の新作アルバム『POST HUMAN: NeX GEn』の先行シングルとなっており、同アルバムは『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』に続くポスト・ヒューマン・シリーズの第二弾となる。

本楽曲は、メロディアスかつエモーショナル、そしてヘヴィなサビが際立つ1曲だ。歌詞は、自分の暗い面と闘う苦悩や孤独を表現しており、リリック・ビデオでは、グリッチやノイズが入り混じった不穏な映像が流れる。この曲は、前作から引き続いてアルバムタイトルとなる、『POST HUMAN』というテーマに沿って、人間の限界や可能性を探求するBRING ME THE HORIZONの音楽性を象徴していると言えるだろう。

結構ホラーチックだ。夜に見るのはあまりお勧めしない。

本記事では、ポストヒューマンという側面を絡めつつ、本楽曲について筆者の想いを記していこうと思う。

ポスト・ヒューマンとは?
BRING ME THE HORIZONからみるポストヒューマン

そもそもポスト・ヒューマンとはどういう意味なのか。知っているようで知らない単語だ。一言で表すと、「人間以後の存在」、いわゆる人間を超えた存在や状態を指す概念である。また、人工知能やバイオテクノロジーなどの技術的発展によって、人間の身体や精神が変化したり、新たな生命形態が誕生したりする可能性があることを示す態度を「ポスト・ヒューマニズム」とも表現する。しかし、その態度は同時に人間のアイデンティティや倫理観にも影響を及ぼす懸念があるとも言われている。

BRING ME THE HORIZONは、ポスト・ヒューマンという概念を音楽的に表現することで、現代社会の問題や未来への展望について考えさせる作品を作り出している。プロジェクト『POST HUMAN』の1作目となった『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』では、コロナ禍や気候変動などの世界情勢に対する鬱憤や、その危機的状況に対する恐怖や怒りを吐き出すようなサウンドやメッセージが多く見られた。

では、『POST HUMAN: NeX GEn』では、どのような視点からポスト・ヒューマンにアプローチしていくのだろうか。

陰から光へ戻る苦しさをリアリティ深く示した新曲

『DArkSide』は、「陰」と「光」、両方の側面を併せ持つ曲だと言える。MVや曲調からは、かなり「陰」よりの作品となっており、自分の内面に潜む闇と戦う苦しみや絶望感を表現しているように感じるが、他方で、誰かに助けてもらうことで救われる「光」の可能性も示唆している。

自分の中にある暗い面と闘う苦悩や葛藤を表現しているその様は、リスナーに強い共感を呼び起こすだろう。特に、コーラスの「Hey, I’m begging you to stay / My darkside won today / My heart keeps breaking / Over and over(お願いだ、ここにいてほしいんだ。今日は闇が勝ってしまった。何度も何度も心が壊れ続けている)」というフレーズは、「自分を見捨てないでほしい」というなんともストレートで切ない想いが書かれている。

ボーカルを務めているOliver Sykesが過去に公にしてきたうつ病や薬物依存なども踏まえると、コーラスで唱われる彼の声が頭の中で鳴り響く。筆者個人としては、若干ではあるが心が締め付けられた気持ちになった。

一聴してわかるサウンド面での時代回帰

本楽曲のサウンド面における大きな特徴は、2000年代初頭の要素を取り入れていることだ。1作目の『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』ではBABYMETALやNova Twinsなどとコラボを果たしている他、リードタイトルである『Parasite Eve』では曲後半がかなりEDM調になっていたりと、音楽の幅をモダンよりに広げていたが、対して本楽曲はうって変わっている。

『DArkSide』は、ヘヴィなナンバーであると同時に、LINKIN PARKのようなニュー・メタルであったり、Glassjawのようなハードコア、他にもスクリーモなどの2000年代初頭に筆頭したアーティスト達の影響を感じさせるような音像と曲調だ。

シンセサウンドが耳の周りを包むようなイントロから始まるが、彼ら特有の重厚なギターやドラムは健在で、力強いサウンドを展開する。オリヴァー・サイクスのボーカルも、メロディックなパートとスクリーモ調のパートが交互に現れ、曲の緊張感を高めているのがわかる。

方向性がガラッと変わった以前のアルバムから「戻ってきた」感が強く、個人的には嬉しかった。

その中で、「Don’t give a fuck if my heart stops beating」という歌詞の一節は、PaPa Roachの『Last Resort』を彷彿とさせるもので、筆者にとっては胸熱極まりない瞬間だった。

ポストヒューマンを軸に時系列を巧みに表現する今プロジェクトへの期待

本作では、曲調やサウンドが現代→2000年代初頭に変化したことで、過去と現在のつながりや影響を感じさせると一方で、MVやジャケットでは最新のプロダクションを駆使することで、未来への展開も予感させる。

彼らは過去から現在、そして未来へと続く音楽の歴史や文脈を自在に操り、人間の感情や思想を深く掘り下げることで、ポスト・ヒューマンの音楽性を表現することを試み続けている。

彼らの新作アルバム『POST HUMAN: NeX GEn』がどのような作品になるのか、期待が高まるばかりである。